雨の日の運転
梅雨に近づき,雨の多い時期になってきました。天候が悪いと車を運転する機会も増えます。
今回は雨の日の運転に関する注意事項と,雨に備えたメンテナンスについて考えてみます。
目次
晴れの日と雨の日とは大きく違いがあります。
雨の日は危険度が上がるので,私自身も運転や教習の際には速度を控えめにし,何度も安全確認して確実に通行することを主眼に置いています。
雨は視界の多くを遮ります。雨の日に運転するには,歩行者の行動,道路の見え方などの注意事項をあらかじめ頭に入れておくことが大切です。また,車のメンテナンスも安全運転に大きく関わってきます。
ペーパードライバー講習を受講される方は,雨の日の運転経験がない方が大半を占めます。初めての受講日が雨の場合,雨量によっては講習の効果が半減してしまいます(中断もしくは他の科目への変更で対応しています)。運転に慣れていない方にとって,雨の影響はそれほど大きいものです。
車内からの道路の見え方や,運転者・歩行者・自転車の心理など考えて,安全運転の資にしていただければと思います。
1 雨の日の道路
1.1 道路の見え方
雨の日に大きく異なるのが,道路の見え方です。
縁石やコンクリートなどは,濡れると色のトーンが落ちて,道路との区別がつきにくくなります。見落としに注意しましょう。
加えて,白線などの標示は格段に見えづらくなります。これは雨量によって変わります。道路面が濡れるくらいの量であれば区画線はしっかり見えますが,雨量が増えて道路面の水はけが間に合わなくなると,道路にたまった水に光が反射して路面が白くなります。下の写真のように,近くの標示はなんとなく見えるのですが,少し離れた距離の標示は見えなくなってしまいます。見えなくても存在はしていますので,白線などを読み取る力(パターン認知力)が必要になります。
1.2 スリップ
「雨の日はスリップしやすいか?」という質問をよく受けます。教習所で学ぶ知識では,すり減ったタイヤで濡れた路面を走行する場合,新品のタイヤで乾いた路面を走行する場合と比較して,制動距離(ブレーキが効き始めてから完全に停止するまでの距離)が2倍以上になることがあると言われています。
実際は制限速度で示された速度以下で走行する場合,路面状態の他が同条件であれば,制動距離が大きく変わることはありません。ただし,速度を超過すると牙を剥きます。加えて雨の日は視界も悪いため,危険対象発見の時機も遅くなります。通常よりも控えめの速度で走行しましょう。
通常,アスファルトで舗装された道路を走行する分には,スリップの心配はありません。しかし,以下の箇所は滑りやすくなっていますので注意が必要です。
- 鉄製のマンホール・排水溝のふたの上
- 白線などの道路標示の上
- 大きな水たまり
- ショッピングセンターなどの駐車場でタイヤのスキール音がする場所
- 工事場所に敷いてある鉄板
4つある自動車のタイヤすべてが上記箇所上に乗ると,スリップする可能性が出てきます。ショッピングセンターの駐車場や鋭角交差点の横断歩道上などは,慎重にアクセルの操作をしましょう。
2 雨の日の歩行者・自転車
2.1 注意力の低下
かつて私は自衛隊に所属していました。下士官になるための教育訓練期間に教わったことで,今でも活かせていることがあります。
雨の降る野外訓練中,教官に「雨の日に気を付けることは何か?」と聞かれたのを覚えています。答えは『士気と注意力の低下』でした。(当時の私は訓練に前向きでわかりませんでしたが)雨で濡れて,やる気が出なくなるのです。「士気が下がっているときほど事故が起きるから,下士官として声掛けを忘れないようにしろ」と教授いただいたのは印象的でした。
このことを通し,雨の日はみんな濡れないことに注意を向けており,周囲への注意が疎かになることを知りました。これは,交通参加者にもそのまま当てはまります。
雨の日は自然と視線が下がり,視野が狭くなりがちです。自動車の外には傘をさしたり雨具を着たりしている歩行者や自転車がいます。車内は普段よりも暗くなり,雨粒で外の情報が得づらくなります。
これらの条件は,あなただけでなく周囲の運転者たちも同じです。晴れた日とは異なる危険について,改めて考えましょう。
2.2 歩行者・自転車の視点
歩行者や自転車からの視点を考えることは,安全運転のヒントにつながります。道路を使う人(交通参加者)が雨の日にどのように考えて通行しているかを再認識し,行動予測のヒントとして捉えてみましょう。
雨の日は視線が下がり,視野が狭くなるため,周囲の行動を予測しづらい状態にあります。加えて傘をさすと,さらに視線は下がります。特に風がある場合は傘を傾けるため,視界の半分が塞がれるような状態です。
次に,音はどうでしょう? 雨粒が傘に当たる音で,後方から来る車や自転車などの音が聴き取りづらくありませんでしたか?
歩行者の立場でどのように見え,聞こえていたかを思い出して,見えづらい・聞こえづらいことを前提に運転しましょう。
自転車走行時に雨具を着ると,耳が塞がれて外からの音が聞こえづらくなります。視線も路面状態に注意を払って走行するため,後方へ注意を向ける余裕がなくなりがちです。
傘さし運転の自転車はさらに危険です。片手運転でふらつきますし,ブレーキも効かなくなるため,とても危険な状態にあるといえます。(※ 傘をさしての自転車走行は違法です)
特に自転車同士が対面すると,どのような行動をとるか,予測が難しくなります。
運転時には,これらを踏まえて自転車の行動範囲への対応を考えなければなりません。
2.3 傘の存在
歩行者が傘を持っていることも大きなポイントです。
傘で顔が隠れている人は,後方の視界がない状態です。自動車側が避けなければなりません。
また道路側に傘が出ていることもあります。これは歩行者がどちらの手で傘を持っているかにより大きく異なります。
見えづらく聞こえづらい状態でどのような行動をするのかわからないため,大きく避けるか,間隔が取れないときは速度を十分に落として通過するようにします。
2.4 水たまり
歩行中に水たまりの泥水を車にかけられたことが一度はありませんか?
水たまりを自動車で通過するときに,泥水を飛び散らせて歩行者にかけてはいけません。泥はね運転は立派な違反です。
しかし,運転中に水たまりを見つけるのは簡単ではありません。まずは水たまりの見分けがつくように練習しましょう。雨がさほど降っていないときは比較的容易に見分けられるかと思います。雨がかなり降っているときには,水面が波立ち,路面より白く見えることが多いです。特に道路の左側の水たまりを意識して見てみましょう。前車がいる場合は前車の動きを見ればわかります。
次に水たまりの近くでの行動です。雨の日の走行では,歩行者を見つけたらすぐその右側を見て,水たまりの有無を確認します。歩行者と水たまりのセットを発見したら,水たまりを避けるか速度を落とす,もしくはその両方を行います。
また,水たまりは広ければ深くなる傾向になります。泥水の飛散する量や距離は,水たまりの深さや通過する速度によって変わってきます。
歩行者や周りの様子がよく見えないときは,速度を控えめにして走行しましょう。
3 雨の日に備えた機器操作とメンテナンス
雨の日の運転に一番肝心なことは,視界を確保することです。
突然の雨で慌てないように,事前にメンテナンスで対策するとともに,必要な機器操作を確認しておきましょう。
3.1 撥水剤の塗布
車用品店やホームセンターなどに行くと,フロントガラス用の撥水剤が売られています。
最近は,雨の日に窓にスプレーしてワイパーするだけのものなど,応急処置できるものも出ています。簡単なものは効果が持続しませんが,ないよりはかなりの効果が期待できます。
サイドミラーとウインドウガラスのメンテナンスも重要です。
整備しないと最初の写真のような状態です。見づらくてとても不安になります。
サイドミラー用の雨対策用品も出ていますが,サイドミラーは取り扱いが難しいため,説明書をよく読んでメンテナンスを行ってください。事前に対策をしておらずどうしようもない場合でも,窓を開けたり布で拭いたりして必ず視界を確保するようにしましょう。
フロントガラスやサイドミラーは自分の目にあたる部分です。見えていない=危険が高いことを十分に理解するのが大切です。
3.2 ワイパー
ワイパーの使い方は,日頃からチェックしておきましょう。
日本車はハンドルの左にあるレバーでワイパーが作動します。レバーを下げればワイパーの動きが速くなり,逆にレバーを上げるとゆっくり動きます。ワイパーを止めるのは雨(レバー)が上がるときと覚えましょう。
乾いている状態でワイパーを作動させると,ワイパーブレードとガラスの間にたまった砂ぼこりで傷つく恐れがあります。晴天時のワイパーチェックは,ウォッシャー液を出した後に行いましょう。
ワイパーも各種ありますが,撥水効果のあるワイパーをお勧めします。ワイパーを動かすたびに,フロントガラスに撥水効果が塗布されます。比較的長期間にわたって効果が持続するため,多少の値段にかえても選ぶ価値があります。
3.3 ガラスのくもり対策
雨の日は,服や靴,傘などについた水滴が車内に持ち込まれるため,窓を閉め切っているとガラスがくもりやすくなります。フロントガラスやウィンドウガラスがくもると死角になり,運転に支障が出ます。
ガラスのくもり対策として,エアコンを使います。エアコンの風をガラスに直接当てるようにしましょう。エアコンでくもりが取れないときは,綺麗な布で拭き取ります。できれば雨の日は,くもり予防で常にエアコンを使うことをお勧めします。
4 雨で走行を中断すべきタイミング
どれだけ対策を重ねても,運転が危険になる雨量があります。走行中であっても中断すべきタイミングを見極める目安は3つあります。
- ワイパーのレベルを最大にしても見えづらい
- 路面が雨で真っ白になっている
- 大雨洪水警報が出ている
道路状況の判断ができない走行は危険です。視界が奪われたときは無理せず速やかに中断しましょう。
天候が落ち着くまでは,メイン道路から一本ずれた道路の脇で待機するようにします。
5 まとめ
雨の日の運転は,晴れた日より危険が多く難しいものです。
安全なカーライフを続けられるよう,天候による違いを理解し,日頃のメンテナンスもしっかり行いましょう。
運転に慣れていない方も,まずはご家族やご友人の運転で横に乗り,助手席から観察することから始めるのはいかがでしょうか?
出張型ペーパードライバー講習 Enrich Driving では安全運転に関する情報や交通のお役立ち情報をお伝えしています。
今後ともよろしくお願いいたします。