交通心理士のいる風景 掲載内容

Enrich Driving の代表インストラクターが、日本交通心理学会会誌第13号(2022年版/2023年発行)の「交通心理士のいる風景」で紹介されました。
掲載内容を以下に紹介します。ぜひご覧ください。

1.プロフィール

 交通心理学は、交通教育に悩んでいた私の答えでした。交通心理学に出会いもう13年が経ちます。
 前職の自衛隊在籍中では、経験できなかった個人としての社会貢献も、一人の交通心理士として出来るようになりました。
 私は以前、陸上自衛隊第1空挺団で勤務。在籍間、習志野自動車教習所にて大型教習指導員・検定員として勤務などをしていました。今は、ペーパードライバー(以下運転再開者という)や企業のドライバーを教育するインストラクターとして事業を立ち上げ活動しています。

2.交通心理士としての活動

2ー1.免許保有者の運転再開支援

 私たちは普段道路を運転していて、免許取得後に初めて走行している車に会うことはほとんどありません(実際運転していたとしてもいても気づかないまま素通りしてしまいます)。しかしながら、運転再開者を専門に教育するインストラクターをしていると、毎日そのような方とお会いすることになります。青信号で止まってしまう方もいますし、一時停止で「止まった方がよいですか?」といわれる方もおられます。久しく運転から離れているとはいえ、運転再開者のほとんどが、道路や対向車との優先関係が分からなかったり、信号のシステムなどを知らなかったりと、運転に必要な知識が免許取得前と変わらないくらい不足していることが分かりました。また、信号を左折するときも全く関係のない場所を見て必要な箇所の目視を忘れてしまっている方も多くいます。運転再開者の目線を確認し、注意の方向などを観察して、正しい運転行動を心理的な方向からも指導を行っています。

 教育に多くの時間をかけることはできますが、運転再開者の経済状況・時間的余裕は大きな負担になってしまいます。そのためできるだけ時間をかけずに安全行動の定着を目指すために、メディアパットを使い、車内で交通の基本的教育をティーチングしてそのまま実技に移る、教育場所や説明箇所の選定など運転再開者に合わせた学科と実技をセットで行う効果的なプランで進めるように心がけています。現在、受講前に運転再開者の不安度合いを測り、コ―チング技法やカウンセリング技法などを用いて、運転再開者に合った進め方を提案し教育しています。交通心理を扱うものとして運転再開者の不安要素を解消することで、安心に変え、早期に安全運転者への第一歩となれるよう日々業務に向き合っています。

2ー2.大学での交通安全講話

 なくてはならない物になったスマートフォン。社会問題になっている「ながらスマホ」。運転者として、また、道路を使用する歩行者として守るべき行動を改めて認識してもらう為に、大学の経済学部のキャリアデザイン科目にて交通安全講話を、依頼を受けて行っております。年に2回で今年4年目となりました。授業形態は、集団面接でのディスカッションの場をイメージしたグループ討議形式を使い、「ながらスマホをなくすためには」をテーマに、生徒の方々が自分の立場で交通安全対策を考え、定着に繋がることを目指しています。
 同時に、対象者の年代に合った事柄を考える事が大切だと意識してもらうため、大学生にも大切な交通安全教育をテーマに、交通心理学の面白さを用いてアクティブに講話しています。

3.交通心理学の知識で使っている事

3ー1.認知心理学:交通安全教育に使用している項目として、遠近法・1点消失法・錯覚・パターン認知・注意機能

3ー2.交通社会心理学:カーコミュニケーションというより車対車ではなく人と人とのコミュニケーション

3ー3.コーチング・カウンセリング:自己評価と振り返りにより不安度合いを解消し、適正に自己評価できるための定着手法として利用

3ー4.アクティブラーニング:運転再開者主導でオープン・クエスチョン

4.自衛隊での経験を活かして

 陸上自衛隊では「危険な訓練をするために安全を管理する」ことがとても重要でした。実際には自衛隊は実任務より訓練を含め教育が大半を占めます。特に安全管理の分野では銃なども扱う危険な訓練もあり、細かく決められた規則により管理され、それを守るよう徹底した教育が行われていました。「見て・やって・体得する」・「危険を安全に訓練する」陸上自衛隊は実技教育のプロの集団だと思っています。
 「危険を安全に訓練する」方法は、運転者教育にはなくてはならないものです。交通法規の厳守、練度管理・危険予測シチュエーションの提供など、実際の交通場面での安全管理など含めて、「安全に失敗して学ぶ」をテーマに今の業務に活かしています。

5.これからの交通心理学への貢献

 交通心理士の資格を取って終わりでなく、学んだことを実践の場で使うことは、効果的な運転者教育となり、事故の低減に寄与できるものと思います。現在、運転再開者の調査研究は多くは行われていません。できるだけ多くの調査研究を進めていくための場として事業を立ち上げました。今後の交通心理学の発展のために様々な調査研究結果を発表していき、教育方法を模索していきたいと考えています。

所属:アジアパートナーズ株式会社C.D.Lab事業部
元空挺レンジャー・交通心理士
発表論文
 「添乗運転で利用する自己評価向上ツールの作成」2019

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